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名古屋地方裁判所 昭和57年(ヨ)257号 判決 1984年4月06日

申請人

篠田徹

外一五三名

右申請人ら代理人

浅井得次

今井安栄

小島隆治

佐藤典子

名倉卓二

被申請人

小牧岩倉衛生組合

右代表者管理者

小牧市長

佐橋薫

右代理人

石原金三

塩見渉

中村正典

右復代理人

花村淑郁

主文

一  被申請人は、別紙物件目録(一)記載の土地上の同目録(二)記載のごみ処理施設を使用してこれを操業してはならない。

二  申請人らのその余の申請を却下する。

三  申請費用は被申請人の負担とする。

事実《省略》

理由

(申請人適格)

一申請の理由一記載の事実(被申請人は、小牧市及び岩倉市がごみ焼却場の設置及び維持管理を共同で処理するため、地方自治法二八四条一項に基づいて設定された一部事務組合であること、被申請人が昭和五七年二月一日ころから本件ごみ焼却場の建設工事を開始し、右工事が殆んど完成していること、申請人らが本件ごみ焼却場の南方四〇〇メートルから一、五〇〇メートルの範囲内にある小牧市野口区内に居住している者で、そのうちの大部分が右区内に土地建物を所有していること)は当事者間に争いがない。

二ところで、本件申請は、本件ごみ焼却場が完成し、操業が開始されれば、申請人らは、受忍限度を越える被害を被る虞れがあるとして、建設工事ないし操業の差し止めを求めるものであり、その主張自体に照らし、仮に被害が発生すれば、その範囲も広く、被害者も多数となることが予想されるから、申請人各自の受ける具体的、個別的な被害の特定は必要でなく、一定地域に居住する申請人ら多数住民が共通して受けるであろう被害発生の蓋然性の大であることを主張すれば足りるというべきである。

よつて、申請人適格は、申請人ら全員につき肯定するのが相当である。

(本件の争点)

申請人らの本件申請理由の要旨は、その主張自体に照らし、次のとおりであると解される。

(一)  手続面

(A)  本件工事は、申請人ら付近住民の同意なしに着工された。

(B)  環境影響評価(以下「アセスメント」という。)に住民が参加していない。

(二)  実体面

(A)  本件ごみ焼却場施設は、公害防止装置に欠陥がある。

(B)  被申請人の実施したアセスメントは極めて不十分であり、アセスメントの名に価しない。

かかる不十分なアセスメントでは、公害発生の有無の予見が不可能であるから、公害発生予防のための種々の改善策を実施することもできない。

以上の理由により、このまま操業を開始すれば、申請人らは、受忍限度を越える公害発生の虞れが極めて大であるとの危惧を等しく抱かざるを得ず、かつ、実際にも、右のような公害発生の虞れは極めて大である。

(三)  被保全権利と必要性

受忍限度を越える公害発生の蓋然性が大であるから、申請人らは、択一的に所有権・占有権、人格権、環境権ないし不法行為を原因として工事施行の差し止め、予備的に操業の差し止めを求める。

(当裁判所の判断)

一一般に、公害発生原因によつて、物権又は人格権ないしは、その行使が妨害され、あるいは、妨害される蓋然性が大であれば、加害者側、被害者側及び社会的な種々の事情(例えば、被害の性質と程度、差止めを受ける側の損害とその程度、汚染源の社会的有用性や、公共性の度合等)を比較衡量して、差止めを受ける側の損害及び社会公共的損失を勘案しても、なお、差し止めを認容するのが相当であると解される程度の違法性、別言すれば、受忍限度を越えた違法性の存在を要件として、被害者は、加害者に対し、物権又は、人格権に基づいて被害の発生を防止するための妨害排除ないし妨害予防請求権を有するというべきである。

二本件について、これを見るに、当裁判所の結論を先に示すと次のとおりである。

申請人ら主張の手続面の瑕疵は、理由がなく、また、本件ごみ焼却場における公害物質除去施設については、メーカーの保証する各公害物質に対する排出濃度の規制値(保証値)をほぼ達成できるとの疎明は存するけれども、本件においては、公害発生の有無の予見、ないし、公害発生防止のためとるべき改善策の検討のため、不可欠と認められるアセスメントにつき、被申請人の実施したアセスメントは、その規模、内容に照らし、著しく不十分であり、極論すれば、アセスメントの名に価しないと認められる。

従つて、本件ごみ焼却場の操業開始前に、さらに十分なアセスメントを通年(約一年間)に亘り実施することが必須要件と認められる。

してみると、この要件に欠ける本件につき、被申請人に操業を認めることは、後述のとおりの様々の事情を勘案しても、なお申請人らに対し、公害発生による受忍限度を越える被害をもたらす蓋然性が大である。

以下にその理由を詳述する。

三本件ごみ焼却場から排出を予想される有害物質等について

<証拠>によれば、排出を予想される有害物質等は次のとおりであることが認められ、これに反する証拠は存しない。

(一)  硫黄酸化物

ごみ中に含まれている硫黄分が燃えたり、水分が多くて自燃性のないごみに助燃材を添加することによつて発生する。硫黄酸化物は、人間の体内に吸入されると、硫酸、亜硫酸等に変化し、呼吸器系疾患をひきおこすものであり、その毒性の強さは、申請人ら主張のとおりである。

(二)  窒素酸化物

ごみ焼却場においては、高温の炉内において窒素と酸素が化合して発生し、炉内の温度が高いほど多量に発生する。

この窒素酸化物が体内に吸入されると、喘息、気管支炎等の病気をひきおこす原因となる。その毒性の強さは、申請人ら主張のとおりである。

(三)  塩化水素

ごみ焼却場においては、ごみ中に含まれるプラスチック、特に塩化ビニールが燃えると塩化水素が発生する。

塩化水素は、人体に吸入されると、水分に溶け塩酸となり、呼吸器系疾患をひきおこす。その毒性は極めて強度であることは、申請人ら主張のとおりである。

(四)  ダイオキシン

塩素化合物で、塩化ビニールなどのプラスチック系のごみが燃えることにより発生する。

従来は、農薬製造工場の周辺地域がダイオキシンによつて汚染された事例が報告され、発がん性、奇形児等の異常出産をひきおこすとも言われている。

しかし、我が国の学界では、この研究は緒についたばかりで、ごみ焼却場においてどの程度のダイオキシンが煙突から排出するかの予測や、その予防のための具体的手段等については分明ではない。

ただし、松山市のごみ焼却場のごみの燃えのこり物からダイオキシンが検出された事例がある。

(五)  他に炉からの排ガス中に含まれるばいじんがあり、また、有害物質ではないが、ごみ焼却場特有の公害としては、騒音、振動、低周波、悪臭等があることは、申請人ら主張のとおりである。

四本件ごみ焼却場における焼却施設及び公害防止施設について

(一)  ごみ焼却施設について

<証拠>によれば、次の事実が認められ、他にこれに反する証拠はない。

本件ごみ焼却場に設置される炉は、一日二四時間稼動して一五〇トンのごみを焼却する連続燃焼式焼却炉(三菱マルチンMR―B二一一型)二基であり、一日に焼却可能なごみ量は三〇〇トンである。

ごみ収集車によつて運ばれてきたごみは、プラットホームからごみピット内に投入され、ごみクレーンによつて取り出されて焼却炉に投入される。焼却炉には固定火格子段と移動火格子段とが交互に配され、全層逆送攪拌運動をする構造になつており、ごみ量に従つて火格子の動かし方を変化させることにより燃焼効率を高めることができる。燃焼したごみは灰とガスになるが、灰は灰ピットに集められて外部に運び出される。ガスは、炉内で摂氏七五〇度から九〇〇度の高温となるが、ガス冷却用ボイラーを通過して温度を約三〇〇度にし、半乾式ガス吸収装置(フレクトナテコ)及び電気集じん機を通過して塩化水素等やばいじんの濃度を低下させてのち、煙突から排出される。

右の過程において、ごみ中の水分や大量に使用される水の排水については、焼却炉内に噴霧して蒸発させたり、循環再利用されるため、外に放出されることのないクローズドシステムが設計計画されている。

(二)  公害防止施設

(1) ばいじん防止装置

<証拠>を総合すると、次の事実が認められ、他にこれに反する証拠はない。

被申請人は、燃焼炉からの排ガス中のばいじんを除去するため、ガデリウス社製の電気集じん機を設置し、同社の性能保証値は煙突出口のばいじん濃度0.05g/Nm3である。除去の原理は、排ガス中のばいじんを、コロナ放電によつてマイナスに荷電し、プラスの集じん極に付着させ、槌打装置でたたき落とし、それをかき出しコンベアで機外へ排出する仕組である。

なお、右電気集じん機には、底部加熱装置や碍子室温風装置を設置して、排ガス温度が低温のときでも、ばいじんを湿潤させることにより除去効率を低下させない措置を講じており、また、バイパス煙道は設置せず、電気集じん機を通過しないで煙突からガスが排出されることのない構造である。

(2) 窒素酸化物防止装置

<証拠>によれば、次の事実が認められ、他にこれに反する証拠は存しない。

窒素酸化物の発生を防ぐ最善の方法は、燃焼温度を一定に保つことであるため、被申請人は、三菱重工業株式会社製造の燃焼温度自動制御装置を設置しており、その性能は、炉温を自動的に摂氏七五〇度から九〇〇度の範囲に保ち、これによつて、窒素酸化物の炉からの出口濃度を一五〇PPM以下に規制するというにあり、実験結果においても右の値以下であつたことを示す資料がある。

(3) 硫黄酸化物、塩化水素防止装置

(イ) <証拠>によれば次の事実が認められ、他にこれに反する証拠は存しない。

炉から排出されるガス中の硫黄酸化物及び塩化水素の除去装置は、ガデリウス社製の半乾式ガス吸収装置「フレクトナテコ」である。

右装置は、直径約二センチメートルのセラミックスの球を装置内に充填し、スクリューコンベアでゆっくり下から上へ球を移動させて、上部に設けられた消石灰と水とを混合した容液を充たした皿に導いて、球の表面にその容液を付着させ、再び下方へゆつくり移動する際に、排ガス中の硫黄や塩化水素と接触してこれを吸収し、化学反応により生成した塩化カルシウムや、硫化カルシウム等が排ガスの熱により乾燥して粉末となり下方に落下し、反応生成物捕集用のサイクロン内に導入される。

ガデリウス社は、右装置により、燃焼ガス中の硫黄酸化物、塩化水素の各入口濃度をそれぞれ六〇PPM以下、七〇〇PPM以下とした場合、右装置の出口濃度をそれぞれ三〇PPM以下、五〇PPM以下とすることを保証している。

(ロ) なお、<証拠>によれば、昭和四八年度より昭和五六年度まで毎月六回施行された小牧、岩倉両市から搬入されるごみ量の増加割合ないしその成分組成の割合の測定調査結果に基づき、硫黄分を含む高分子系の混入割合(平均約一四%)を算出し、その結果及び助燃材として使用する予定のものは硫黄分の多い重油でなく、硫黄分の少ない灯油を使用する予定であることを前提として、硫黄酸化物の入口濃度を六〇PPM以下としたことが認められ、また、右湧井証人の証言によれば、小牧・岩倉両市は、今後分別収集を強化する方針であることが認められるから、右入口濃度の規制値は、一応合理性あるものと認められる。

(ハ) 次に、塩化水素の入口濃度については、<証拠>によれば、プラスチック類の分別収集が十分に実施されていない都市における連続燃焼式焼却炉の排ガス中の塩化水素濃度は、本件炉のような冷却用ボイラー式の場合、四五六PPMから八三一PPM、平均六一九PPMであること(昭和五二年度、社団法人日本環境衛生工業会調べ)が認められるから、仮に、小牧・岩倉両市における分別収集が十分に行なわれていないとすれば、本件炉においても、その排ガス中には七〇〇PPMを越える塩化水素が含有する場合もありうると考えられる。この点に関して<証拠>によれば、炉の出口、すなわち、フレクトナテコガス吸収装置への入口の塩化水素の濃度が七〇〇PPMを越える場合であつても、消石灰の投入量を増すこと、出口の温度を低くして温度差を大きくすること(入口温度は冷却用ボイラー通過後の摂氏三〇〇度まで一定)、焼却物の量を減らして排ガス量自体を減らし、右装置内のガスの滞留時間を長くして消石灰スラリーの付着した球体に長時間接触させることにより、出口濃度五〇PPMを確保する計画であることが認められ、右計画は、合理性があり、実現可能であると認められる。

(4) ダイオキシン防止装置

<証拠>によれば、一般に、ごみ焼却場の残灰中にプラスチック製品が原因と言われる毒性の強い物質ダイオキシンが含有される蓋然性があることが認められるから、本件ごみ焼却場においても、プラスチックの完全な分別収集が実施されない限り、残灰中にダイオキシンが含有される可能性は否定できない。しかしながら、先に説示したとおり、ごみ焼却場におけるダイオキシン対策については、我が国においては、その研究が緒についたばかりであり、<証拠>によれば、厚生省は「ダイオキシン等専門会議」を発足させ、今後の対策に乗り出したことが認められるから、被申請人が、ダイナキシン対策につき特に考慮していないこと(右事実は、被申請人の自認するところである。)を以つて、直ちに公害防止対策に欠陥があると即断することは相当でない。

(5) 悪臭防止対策

被申請人が悪臭対策として講じている措置は、<証拠>によれば、建屋を鉄骨鉄筋コンクリート造の密閉構造とし、ごみを炉に送る前に一時貯留するごみピット室内の空気を燃焼用空気として炉に送り込んで、ピット室内を負圧に保ち、ピット内にごみを投入する投入ステージの投入口には自動開閉扉を設置して投入時以外の時は扉を閉め、建屋のごみ収集車出入口に電動シャッターとエアーカーテンを設置し、休炉時にはピットと投入ステージに防臭剤を噴霧装置によつて散布することにより、悪臭の洩れを防止する計画であることが認められ、他にこれに反する証拠はない。

また、ごみ運搬車から落下する汚水の臭気については、<証拠>によれば、ごみ収集車に汚水受けを装備し、ごみ投入後自動洗車装置で洗車し、作業終了後には内部に防臭剤を散布する計画であることが認められ、他にこれに反する証拠はない。

(6) 騒音、振動防止対策

<証拠>によれば、次の事実が認められ、他にこれに反する証拠はない。

(イ) 工場騒音対策

本件ごみ焼却場の各機器類は、すべて密閉構造の鉄筋コンクリートの建物内に収納されており、敷地境界線から最も近い民家まで約一五〇メートル離れており、敷地境界線上における昼夜の騒音は五〇ホーン以下とするよう規制されている。

(ロ) 工場振動対策

振動しやすい機器は、振動エネルギーを吸収できる強固な基礎で固定し、さらに防振ゴムを使用し、振動の伝播を防止するよう計画されている。

右の(イ)(ロ)によれば、申請人ら主張の低周波による被害は仮に生じたとしても、その程度は極めて少いと考えられる。

以上(1)ないし(6)に認定したところによると、被申請人の公害物質除去装置並びに悪臭、振動、騒音防止等の対策は一応十分なものと認められ、重大な欠陥があるとは認められない。

以上の説示に反する申請人らの主張は採用できない。

五被申請人の実施したアセスメントの評価

(一)  アセスメントの定義と法規制

<証拠>によれば、アセスメントの定義及び我が国におけるアセスメントに関する法規制は次のとおりであることが認められる。

もともと、環境アセスメントなる語の原名は、Environmental impact as-sesmentであり、我が国では、環境影響評価と呼ばれている。

そして、公害発生が予測される事業に対するアセスメントの特質は、開発しようとする事業の計画過程に対し、これを事前に総合的に検討することにより、環境汚染の発生を防止せんとするにある。

これを更に具体的に言うと、第一に公害発生が予想される事業の内容を明確にすること、第二に、当該事業計画の実施により発生が予想される公害が防止できるか否かの検討のための具体的調査項目、調査方法の検討、右検討により決定されたところに従つた調査の実施、第三に右調査結果を解析し解析した結果に基づいて、当該事業が現実に稼動したときにどのような公害が発生するか、ないし発生しないかを予測し、第四に、右予測結果に基づいて、当該事業の実行、一部修正あるいは中止を判断する、以上の四点である。

なお、アセスメントには、他に住民参加と、そのための具体的手続(アセスメント結果報告書の公開、住民の意見書提出等)を要件に加える見解も存するが、我が国法上は、住民参加を義務づけたアセスメント法が存しないから、住民参加をアセスメントの必要要件とみるわけにはいかない。そして前記のような環境アセスメントに関する法案は、いまだ制定、施行されておらず、僅かに、港湾法、公有水面埋立法・工場立地法等の特別法等に右特別法の適用を受ける事業に、アセスメントを義務づけているのみである。しかし、自治体の中には、アセスメントに関する条例を制定施行しているところもあるが、被申請人の事業に関し、小牧、岩倉両市は、いまだ条例を制定していない。

しかしながら、法制度として規制されていなくとも、本件ごみ焼却場の事業自体が公害の汚染源を発生させるものであることにかんがみると、前記のようなアセスメントは、必要不可欠と解される。

(二)  本件ごみ焼却場稼動に対し、なされるべきアセスメントの具体的内容について

(1) 本件ごみ焼却場から排出が予想される有害物質、右有害物質の人体に及ぼす毒性は、先に認定したとおりであるから、被申請人の公害防止諸施設が、仮に正常に作動し、その規制値を達成できたとしても、その規制値とは煙突からの排出濃度で、塩化水素が五〇PPM、窒素酸化物が一五〇PPM、硫黄酸化物が三〇PPMであることは前記のとおりであるから、煙突から排出されるこれら規制値以下の有害物質が、通年に亘り、本件ごみ焼却場の周辺にどのように拡散し、その着地濃度がどのようになるかについては、前記のようなアセスメントが必要であり、これなくしては、公害発生の有無の予測はできないことは、多言を要しない。

(2) ところで、<証拠>によれば、右のような公害発生の有無の予測に不可欠なアセスメントとしては、先づ第一に、本件ごみ焼却場建設予定地及びその周辺の地理的条件、気象条件を可能な限り正確に把握しなければならないが、そのためには、本件ごみ焼却場の後述のような特殊な地形、気象からすれば、時間的には通年(約一年)、空間的には高さ約三〇〇メートル、平面的には約二キロメートルの規模による現地調査が必要であり、第二に、右把握された条件を解析し、右解析結果に基づいて前記各公害防止施設の機能をふまえて、利用可能な予測方法を適切に用いて予測を行ない、かつ、右予測の精度を正しく吟味することが肝要であることが認められる(なお、搬入されるごみ質(特に塩化ビニール系の混入割合)の予測のため、過去数年における小牧、岩倉両市のごみの成分測定調査も必要であることは、申請人ら主張のとおりである)。

(3) 本件ごみ焼却場周辺の地形と気象の特徴

<証拠>によれば、本件ごみ焼却場周辺の地形と気象については、次のとおりの特徴が認められる。

(イ) 本件ごみ焼却場は、標高約九〇メートルの場所にあり、通称軍治山の中腹に位置する。東側に隣接して、標高一六〇メートルのたいまつ山があり、北方六〇〇メートルの位置に、標高二六〇メートルの白山があるなど、北側、東側、西側は山地であり、南側に平野が広がり、本件焼却場は、山地から平野に移行する部分の、三方を山地に囲まれた山麓に位置している。また、山地からいくつかの谷筋が南に開かれており、本件焼却場のすぐ西側と東側にも大きな谷筋が存在する。申請人らの住居は、本件焼却場の南側の平野部分にあり、焼却場からの距離は四〇〇メートルから一五〇〇メートルの範囲内である。

(ロ) 一般に山地の山腹における大気の動き方は、平野部のそれに比較して次のような特徴がある。

一つは、ダウンドラフトと呼ばれる現象であり、これは、煙突の近くに山があるとき、風下側の山の斜面近くに強いうずが生じて上下の空気混合がはげしくなるので、局地的に地上濃度が高くなる。そして、その影響は風速にもよるが、相当高空にまで及ぶ。

他の一つは、逆転層である。

一般に、地面付近の気温との比較において、上方ほど低温の場合を逓減、上方ほど高温の場合を逆転、上下等温の場合を中立といい、逆転層とは、上方ほど気温が高くなつている気層である。逆転層の状態は、その特定周辺地域における気象状態に大きな影響を及ぼし、その影響は、気温分布に対してばかりでなく、風向、風速、大気汚染量などにも強く現われる。従つて、逆転層がよく発生し、発達する地域とそうでない地域とでは、気候状態に非常に大きな違いを生ずる。

逆転層は接地逆転(輻射性逆転)と上層逆転(沈降性逆転)に分類される。

接地逆転とは、天気がよく風速がないときは、太陽が沈むころ、地面は輻射のため急速に冷え始める。地面に接した気層では、日の入りの約一時間前から逆転し始め、日の出後約一時間まで逆転している。

この逆転は、年間を通じて度数が多く、局地気象には最も重要な役割を果たす。この逆転層の高さは、そのときの風速、地表面の輻射物質の状態にもよるが、大体二〇〇メートルないし三〇〇メートルの高さである。

上層逆転は、比較的上層に現われる逆転であり、沈降性逆転と前線性逆転に分類され、前者は高気圧の強さに、後者は寒冷ないし温暖前線に起因し、局地気象に及ぼす影響は、接地逆転より小さいが、接地逆転が日中は消滅するに対し、上層逆転は日中も存在し、何日も接続することがあるので、局地気象に及ぼす影響を無視することはできない。

ところで、山地の山腹に生ずる逆転層とは、接地逆転の現象であり、日の出後二時間位して、地面に接した大気が暖められて、逆転層が解消するとき、逆転層の上に滞留していた汚染物質が高濃度のまま地表面に接して停留することになる(いわゆるいぶし現象あるいはヒューミゲーション現象とも言われる。)。

このいぶし現象は、周囲を山で囲まれた空気の停留しやすい地形により多く発生する。

(ハ) 申請人らは、申請外西岡昭夫らの指導により、本件ごみ焼却場地域につき、昭和五七年六月中の毎日の風向の頻度を調査し、これと本件ごみ焼却場の南西約九キロメートルにある小牧飛行場近くの高台における名古屋航空気象台の調査結果と対比し、前者と後者とでは、風向の分布が大きく相違していることを明らかにし、また、風速の強弱の頻度の比較調査をし、前者が後者より高いことを明らかにした。

また、風向の変り方が前者と後者では異なることも明らかにした。なお、右調査により本件ごみ焼却場周辺は夕方と早朝に風速が静まり、山から山下側に向って吹く風があること、それが午前九時ごろに逆になることを明らかにし、これに加えて、現地につき、昭和五七年の春夏につき季節別の風向の頻度も調査した。また、特定日時における地上から四〇メートルないし一八〇メートルの高さの温度の変化を調査し、前記ダウンドラフト、逆転層によるいぶし現象が多発することについても明らかにした。

その他、昭和五六年一〇月末から昭和五七年三月までの間に六回に亘り煙流実験を行った(前掲<証拠>)。

右実験結果によれば、冬期の早朝五時三〇分ころの大気が非常に安定している時刻に本件ごみ焼却場の現地において、高さ六〇メートルに上げた気球の発煙筒から発生させた煙は、しばらく広がらず停留しているが、山側から下へ向って吹く風により煙源から風下の民家側に徐々に広がり、煙源から四〇〇メートル位の所で地上にかなりの濃度を生じさせること、次に右時間帯より少し遅い時刻に二か所の山の頂上や峠から発生させた煙は、山の斜面に沿つて、あるいは、谷沿いに、煙が広がり、結局申請人らの居住する民家側に向かつて広がつてゆくこと、逆転が解消しかかつている午前七時三〇分ころ、現地において、高さ六〇メートルに上げた気球の発煙筒から発生させた煙は一八〇秒後においても煙はほとんど移動しないで発生源付近に高濃度を生じさせることを明らかにした。

なお、昭和五八年一一月九日午前九時二五分ころにも同様の煙流実験を行つた結果、前記第一回実験結果と同種の現象を明らかにした。

(4) アセスメントにおける予測調査について(いわゆる拡散計算と風洞による拡散の模型実験)

アセスメントにおける予測(本件に即して言えば、煙突から排出された規制値以下の濃度の公害物質が通年に亘り具体的にどのように拡散し、着地濃度が後述の環境基準値以下になるか否かを予測すること)は、前述した規模の現地調査の結果を基礎として、これを解析し、これに基づいて汚染物質の大気拡散の推定が行なわれるべきであるところ、<証拠>によれば、本件ごみ焼却場周辺地域のような複雑な地形及び複雑な局地気象を有する場合における拡散の推定は、数学的計算式(以下「拡散式」という。)により推定することは、非常に困難であり(拡散式は、地表やごく地表に近い高さの煙源による平坦地の小規模拡散実験結果に基礎を置いており、逆転層や地形の影響は、考慮されていない)、現在では、地形モデルによる風洞実験か、エアートレーサーを用いた現地における拡散実験をするほかないこと、風洞実験は、風洞内の気流と実際の現地での気流をどのように相似(これを「相似則」という。)させるかが大きな問題であり、両者とも、その基礎とする資料は、現地における拡散実験の情報が必要であること、拡散実験は、汚染物質の大気中の拡散を調査するには、最も望ましい方法であるが、多額の費用と多くの人員を要するので、長期間の実験が困難であるとの難点が存すること、以上の事実が認められる。

これを要するに、アセスメントにおける予測調査は、本件ごみ焼却場について言えば、通年に亘る現地調査を基礎として、これを解析したうえ、これに基づいて、正確な風洞実験ないし、拡散実験を行なうことが肝要であり、拡散式による計算は前記のような難点が存するから、拡散式の結果を過大評価することはできないわけである。

被申請人は、右拡散式による計算に関し、縷々、計算式適用データを主張し、その拡散式計算結果は、環境基準値をはるかに下回る旨主張するけれども、右主張による計算過程を仔細に検討すると、先に説示した拡散式計算による難点を克服していないことが容易に判明するから、被申請人主張の拡散計算には、その正確性について多大の疑念を抱く余地の存することは否定できない。

(三)  被申請人の実施したアセスメントについて

先づ、搬入を予想されるごみ質の成分測定調査については、硫黄酸化物、塩化水素防止装置の項で認定したとおりであり、一応十分な調査をしたと認めうる。

つぎに、<証拠>によれば、被申請人は昭和五四年八月、株式会社環境管理研究所エンゲルフェルトに環境アセスメントを委託し、同社が昭和五五年二月環境アセスメント報告書(以下「エンゲルフェルト報告書」という。)を作成提出したことが認められ、弁論の全趣旨により成立を認めうる疎乙第五五号証の一、二によれば、被申請人は、大阪府立大学工学部教授伊藤昭三に依頼して、本件ごみ焼却場周辺の気象環境と排気物質の濃度予測と題する文書(以下「伊藤文書」という。)を昭和五八年七月六日付で提出を受けたこと、被申請人自ら前記教授の指導のもとに本件焼却場近隣の気象調査と題する書面(以下「組合書面」という。)を作成したこと、<証拠>によれば、被申請人は財団法人日本気象協会東海本部に現地における気象調査及び拡散実験を行なうよう依頼し、同協会同本部は昭和五八年一一月右調査を行なつたこと(以下「気象協会書面」という。)が認められる。

そこで、以上の各調査が、前述したアセスメントの要件を充足しているか否かの点について検討する。

(1) エンゲルフェルト報告書(疎乙第六号証)における気象調査の項目では、風速について名古屋空港、名古屋地方気象台の一九四九年から一九七〇年、或いは一九五六年から一九七〇年の月平均、年平均風速のデータが記載され、両者のデータの上限値から下限値までを現地の風速とみなすと判断している。風向についても、名古屋空港、名古屋地方気象台、小牧消防署のほか犬山消防署、春日井保健所等のデータを示したのみで、現地調査に基づく現地の風向との対比は全くしていない。硫黄酸化物等のバックグラウンド濃度については、測定点が現地と離れた地点でのデータが掲記されている。但し、昭和五四年九月一七日と一八日に、現地から南東二〇〇メートルに位置する老人ホーム小牧寮において測定された実測結果が掲記されている。なお昭和五四年一二月一二日午前六時から午後四時までの間、大気拡散実験と、気象調査が行なわれ、拡散実験としてエアトレーサー放出と捕集網による捕集が二回行なわれている。

これを要するにエンゲルフェルト報告書は、現地調査は僅かに一日実施したのみであるから、前述したアセスメントの要件に著しく欠けるという外はなく、アセスメントの名に値しないというべきである。

(2) 次に、組合書面(疎乙第五五号証の二)は、逆転層解消時のヒューミゲーション(前記いぶし現象)を把握するため、名古屋東山テレビ塔における昭和五七年度の高度一五メートル、三〇メートル、五〇メートル、九〇メートル、一三二メートルの五段階の気温観測データ、茨城県館野の気象観測所における六段階の高度の気温観測データ、小牧消防署の風向風速データを用いた解析を行なつた。

又、風向、風速については、エンゲルフェルト報告書を補完するものとして、小牧、春日井、犬山の各消防署、名古屋、岐阜の各地方気象台、名古屋航空測候所、愛知県八開、岐阜県多治見の各地域気象観測所の八点の風向、風速の観測結果の調査解析がなされている。その結果、小牧消防署付近は、日中は全般的に西風であるから、北側の山地に平行に風が流れるためダウンドラフトは生じにくく、また、夜間も風速が二、三メートルであるから大気が安定しているためダウンドラフトは生じにくい旨の結論を出している。

ところで、この調査の中心をなす風向風速の調査は、小牧消防署のデータを使用し、気温の鉛直分布は名古屋市東山テレビ塔のデータを使用しているのであるが、<証拠>によれば、小牧消防署は本件ごみ焼却場から西南西約八キロメートル、名古屋市東山テレビ塔はそれよりはるかに遠距離にあることが認められるから、本件ごみ焼却場の風向、風速、気温の実地調査に代わるものとして、前記二地点の資料を使用するのなら、現地と右二地点との、地形その他の諸条件の類似性等、代替可能性があることの論証が必要であるが、それらの論証はなされていない。

この点につき組合書面は、小牧消防署と名古屋航空測候所、小牧消防署と名古屋気象台との風向、風速の平均の差がいずれも僅少であるから、小牧消防署の資料は、右二地点より近い本件ごみ焼却場のデータとして代替可能であると判断しているようであるが、気象は地形によつて著しく影響されるのであるから、地形の比較をしないで、単に距離が相対的に近いとの理由で、小牧消防署(前掲疎甲第六三号証によれば、小牧消防署は平坦地にあることが認められる。)のデータを代替可能なものとするのは無理であるという外はなく、組合書面も、現地主義の調査をしていない点において、アセスメントの名に値しないというべきである。

(3) 気象協会書面(疎乙第六四号証)について

気象協会は、特に逆転層解消時を選んで昭和五八年一一月九日の早朝四時から一〇時まで、大気拡散実験をなし、また、同月五日から一一日の間に現地の気象観測などを行ない、これに基づいて、拡散式による計算をしている。

右気象協会書面も、前述したアセスメントに必要な通年の現地調査を欠いている点において、アセスメントにおける予測については、俄かに信用し難いというべきである。

(4) 伊藤文書(疎乙第五五号証の一)について

右文書の基礎資料は、本件ごみ焼却場の現地調査の結果に基づくものでないから、右書面も、現地調査の資料を全く欠く点においてアセスメントの名に値しないことは明らかである。

(5) 以上を要するに、被申請人の実施したアセスメントは、前述したアセスメントの現地調査の要件に欠けるから、予測調査も、その前提となる基礎資料に欠けるものというべく、アセスメントとしては著しく不十分なものというべきである。

以上の説示に反する被申請人の主張は採用できない。

六被申請人のしたアセスメントの欠陥と公害発生の蓋然性の存否について

(一)  環境基準値等について

<証拠>によれば次の事実が認められる。

ばいじん、硫黄酸化物、窒素酸化物の環境基準値については、公害対策基本法九条の規定に基づく大気の汚染に係る環境上の条件について環境庁が、人の健康を保持するうえで維持することが望ましい基準を環境基準として定めたが、そのうち一〇ミクロン以下の粉じん(浮遊粒子状物質)については、一時間値の一日平均値が0.10ミリグラム/m3以下、かつ、一時間値が0.20ミリグラム/m3以下、硫黄酸化物は、二酸化硫黄について、一時間値の一日平均値が0.04PPM以下であり、かつ、一時間値が0.1PPM以下、窒素酸化物は、二酸化窒素について一時間値の一日平均値が0.04PPMから0.06PPMまでのゾーン内又はそれ以下と定められている。

塩化水素については、環境庁による環境基準値は定められていない。環境基準値が未だ設定されていないのは、塩化水素の発生源が限定されていることや、被害の実態についての把握が不十分であるためと考えられるが、日本産業衛生学会は、塩化水素を扱う工場における労働環境基準値として、昭和五七年、一時間値の一日平均値を五PPM以下と定めるよう勧告している。この値は、塩化水素と硫黄酸化物の作用の類似性や、疫学的調査などから導き出されたものである。一般の環境基準値としては、この三〇分の一から一〇〇分の一、その上安全率を見込んで0.02PPM以下と設定するのを妥当とする見解がある。

(二)  先に説示したアセスメントの具備すべき要件は、要するに、本件ごみ焼却場の煙突から排出される公害物質の着地濃度が前記環境基準値を必らず下回るか否かの予測について、不可欠なものであるところ、被申請人の実施したアセスメントは、現地調査を殆んどせずになされた点において重大な欠陥があり、アセスメントの名に値しないというのであるから、申請人らにとってみれば、本件ごみ焼却場が現状のままで操業が開始された場合、環境基準値を上回る濃度の公害物質により人体が汚染され、健康が害される蓋然性が大であると危惧の念を抱くであろうことは容易に推測されるところであり、(<証拠>によれば、昭和五六年一二月二四日に申請人らと被申請人との協議において、右の危惧が強く主張され、被申請人側は、これに対し、十分な答弁ができなかったことが認められる。)、当裁判所も、現状のままで操業を開始するとすれば、右操業により申請人らが身体上の被害を被る蓋然性は大であると判断せざるを得ない(本件ごみ焼却場については、新規に通年に亘る現地調査をなし、右調査結果に基づいて、正確な予測調査をなし、その上で、被害発生の存否を検討したうえで操業の規模態様を修正する等の改善策の要否を確定し、しかる後に操業を始めるべきである。)。

七被保全権利とその必要性について

(一)  本件ごみ焼却場が現状のまま、操業開始となれば、申請人らは、公害物質により、具体的被害を被る蓋然性が大であるから、申請人らは、被害発生予防のため人格権に基づいて、被申請人に対し妨害排除ないし妨害予防請求権を有することは明らかである。

なお、操業開始に際し、付近住民の同意ないし公害防止協定の締結は操業開始の法的要件ではないから、申請人らの手続面の違法の主張は理由がない(もつとも、付近住民の同意ないし公害防止協定の締結は、自治体と住民との関係においては、奨励されるべき事項であることは申請人ら主張のとおりである。)。

(二)  つぎに、<証拠>によれば、次の事実が認められる。

(1) 昭和五六年一二月末現在の小牧市・岩倉両市の人口は約一五万人であり、ごみ量は一日平均一〇〇余トンであるが、ごみ量は、人口の増加に伴い年々増加傾向にある。

(2) 被申請人のごみ処理のための現有施設は次のとおりである。

① ごみ焼却場

所在 岩倉市川井町江崎三八一九―一

工場面積 3986.4平方メートル

機械 機械化バッチ式焼却炉二基

機械能力 一日八時間稼動しごみ量二〇トン処理(一基につき)

作業員 一六名

② ごみ最終処分場

所在 小牧市大字大草字年上坂五八二四の四

埋立面積 約三万六一〇〇平方メートル

作業員 四名

(3) 被申請人の現有施設の稼動状況

被申請人の現有ごみ焼却場は、前記のとおり一日当り八時間稼動し二〇トンを処理する焼却炉二基を設置し、ごみ処理をしていたが、かような稼動状況ではごみ量の増大に対応できなかつたため、昭和四五年八月三一日より一日八時間稼動といういわゆる正常運転をやめて作業員も増員し、一日二四時間稼動という連続運転を行なうようになつた。ところが連続運転によりごみ量を処理しても、そのため性能は低減して二基で一日九〇トンが最大であつた。

かようにごみ焼却場の処理量を高めてもごみ量の増大には応じきれず、昭和四六年一二月二一日よりごみ焼却場にて処理しきれないごみを直接前記最終処分場へ持ち込むような状態になつた。ごみ焼却場にて処理し切れず、直接最終処分場へ持ち込んでいる量も毎年増加し、昭和五六年度には約一〇パーセントにおよんでいる。

被申請人の現有施設におけるごみ処理の実情は以上のとおりであり、現有ごみ焼却場においても、右のとおり正常運転ではなく連続運転して機械を酷使しており、しかも既に一六年間にわたつて稼動しているため老朽化もある程度進んでいる。又最終処分場についても右のとおりごみ焼却場によつて処理せず直接ごみをそのまま持ち込み埋め立て処理する方式を続けていれば数年ならずして限界を越える状況である。

(三) 以上に認定した事実によれば、本件ごみ焼却場の公共的必要性は十分に肯認できるし、もし、本件差し止め請求が認容されれば、小牧、岩倉両市としては、相当の経済的、公共的損害を被るであろうことは容易に推認できる。

しかしながら、これらの点を勘案しても、本件ごみ焼却場は、必要なアセスメントの現地調査が、殆んどなされていないという点において重大な欠陥を有しているのであるから、受忍限度を越える公害発生の蓋然性の程度は高いというべきであり、地域住民の健康保持の観点からして、本件申請中操業の差し止めを求める部分は理由があると解せざるを得ない(<証拠>によれば、昭和五八年一〇月一五日現在本件ごみ焼却場の建築は九五%完成しており、同年末にはほぼ完成すると推認されるから、工事禁止を求める申請部分は却下を免れない。)。

八結論

以上の次第であるから、本件ごみ焼却場の操業の差止を求める予備的申請は理由があるからこれを認容することとし、建築工事の差止を求める主位的申請については、必要性がないから却下することとし、申請費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(松本武 稲葉耶季 藤田敏)

物件目録(一)

(一) 愛知県小牧市大字野口字大平二四一一番

山林 五八五平方メートル

(二) 同県同市大字野口字大平二四一二番

田  五七八平方メートル

(三) 同県同市大字野口字大平二四一三番一

田  三一三平方メートル

(四) 同県同市大字野口字大平二四一三番二

宅地 423.48平方メートル

(五) 同県同市大字野口字大平二四一四番一

畑  三四七平方メートル

(六) 同県同市大字野口字大平二四一四番二

田 五六一平方メートル

(七) 同県同市大字野口字大平二四一四番三

山林 四六平方メートル

(八) 同県同市大字野口字大平二四一四番四

田  四七六平方メートル

(九) 同県同市大字野口字大平二四一五番

田  七二〇平方メートル

(十) 同県同市大字野口字大平二四一六番一

雑種地 三七平方メートル

(十一) 同県同市大字野口字大平二四一七番二

原野 3.30平方メートル

(十二) 同県同市大字野口字大平二四一七番三

愛知用水路 三二平方メートル

(十三) 同県同市大字野口字大平二四一七番四

原野 七二平方メートル

(十四) 同県同市大字野口字大平二四一七番五

原野  一二平方メートル

(十五) 同県同市大字野口字神尾前二八八一番九

山林 四、七二四平方メートル

(十六) 同県同市大字野口字神尾前二八八一番一〇

山林 七、九二六平方メートル

(十七) 同県同市大字野口字神尾前二八八一番一一

山林 四九五平方メートル

(十八) 同県同市大字野口字神尾前二八八二番一〇

田  一四五平方メートル

(十九) 同県同市大字野口字神尾前二八八二番一四

畑  九二二平方メートル

(二十) 同県同市大字野口字神尾前二八八二番一五

山林 一一平方メートル

(二十一) 同県同市大字野口字神尾前二八八二番一六

山林 七七九平方メートル

(二十二) 同県同市大字野口字神尾前二八八三番二

砂防地 二五七平方メートル

(二十三) 同県同市大字野口字大洞二三一〇番一一

山林 一九平方メートル

(二十四) 同県同市大字野口字大洞二三九五番一

山林 四、九九五平方メートル

(二十五) 同県同市大字野口字大洞二三九五番二

愛知用水路 二九平方メートル

(二十六) 同県同市大字野口字大洞二三九五番三

山林 一、三三八平方メートル

(二十七) 同県同市大字野口字大洞二三九六番二

山林 一、六二三平方メートル

(二十八) 同県同市大字野口字大洞二三九七番二

山林 一二三平方メートル

(二十九) 同県同市大字野口字大洞二四〇一番一

田  五五五平方メートル

(三十) 同県同市大字野口字大洞二四〇一番二

愛知用水路 四六平方メートル

(三十一) 同県同市大字野口字大洞二四〇一番三

田  三五七平方メートル

(三十二) 同県同市大字野口字大洞二四〇一番四

田  四二平方メートル

(三十三) 同県同市大字野口字大洞二四〇二番

田  九二平方メートル

(三十四) 同県同市大字野口字大洞二四〇三番

山林 八五平方メートル

(三十五) 同県同市大字野口字大洞二四〇三番四

畑  一〇六平方メートル

(三十六) 同県同市大字野口字大洞二四〇三番五

畑  一七七平方メートル

(三十七) 同県同市大字野口字大洞二四〇四番

田  四七二平方メートル

(三十八) 同県同市大字野口字大洞二四〇五番

畑  二二八平方メートル

(三十九) 同県同市大字野口字大洞二四〇六番

田  一〇二平方メートル

(四十) 同県同市大字野口字大洞二四〇七番

田  二二八平方メートル

(四十一) 同県同市大字野口字大洞二四〇八番二

田  六一一平方メートル

(四十二) 同県同市大字野口字大洞二四〇八番三

愛知用水路 二六平方メートル

(四十三) 同県同市大字野口字大洞二四〇八番四

田  六二四平方メートル

(四十四) 同県同市大字野口字大洞二四〇九番

田  二、三六八平方メートル

(四十五) 同県同市大字野口字大洞二四一〇番

田  一三八平方メートル

(以上実測面積 40731.65平方メートル)

物件目録(二)

(一) 敷地の位置

別紙物件目録(一)記載のとおり

(二) 建築物

工場棟 鉄骨鉄筋コンクリート造及び鉄骨造 地下一階地上五階建

管理棟 同 二階建

計量棟 同 一階建

(三) 敷地面積

40731.65平方メートル

(四) 建築面積

4519.47平方メートル

(五) 延べ面積

9932.64平方メートル

(六) 炉形式

三菱マルチンMR―B二一一形連続燃焼式焼却炉

(七) 炉数量

一五〇トン炉 二基

(八) 焼却能力

日量 三〇〇トン

(九) 煙突

高さ 59.5メートル(ノズル部分を含む)

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